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古代人の歯石や徳川将军の史料の「デンプン粒」から歴史を読み解く

掲载日:2026年5月25日

遗跡の遗物や古文书に残るデンプンの粒子を研究する史料编纂所特任助教の渋谷綾子先生。「残存デンプン粒分析」という手法を使って、縄文时代など古代の人の食や暮らしを復元してきました。2022年には、北海道の続縄文时代の人骨の歯石からイネのデンプン粒を発见。歯石による食性研究の、日本における先駆的な事例として注目されました。

デンプン粒
トルコのハサンケイフ?ホユック遗跡で石器の表面からサンプリングする渋谷先生。国内だけでなく、トルコや中国などでの共同研究にも取り组んできました。
 

数千年前の人たちはどんな食生活を送っていたのか。この问いの答えを、遗跡から発掘された石器や土器、人骨の歯などに付着したデンプンの粒子から探るのは、史料编纂所に所属する唯一のサイエンティスト、渋谷綾子先生です。

これまでさまざまな遗跡で出土した土器や石器の付着物を分析し、旧石器时代や縄文时代などの石器からコナラ属やユリ属のデンプン粒を见つけたり、稲作がまだ行われていない时期の人骨の歯石からイネのデンプン粒を発见してきました。

「意外なところにデンプン粒が残っているのを発见したときは、とても嬉しいです」と渋谷先生。「石器に付着していたデンプン粒を特定できれば、その石器で加工していた植物が推定できます。分析することで、集落の中で人が何の植物を使っていたのか、食べていたのか、どのように活动していたのかを知る手がかりになります」

小さなものではわずか1/1000ミリメートルほどの植物のデンプン粒。非常に安定した化学构造をもつため、热を受けない限り、理论上は何千年もの间土壌の中に残り続けます。この特性に着目した考古学者たちが残存デンプン粒分析の方法论を确立したのは1990年代。遗物に残るデンプン粒から过去の植物利用を復元できるという认识が広がり、世界各地の遗跡の调査で使われるようになりました。日本に导入されたのは2004年で、渋谷先生はその草创期から研究を牵引してきた一人です。

科学分析がしたくて、イギリスへ

史料編纂所の渋谷綾子先生
史料编纂所の渋谷綾子特任助教

弥生时代から平安时代にかけての遗跡が多数ある大阪府八尾市で育った渋谷先生。発掘调査や遗跡が身近にある环境が、考古学を学びたいと思った原点ではないかと言います。奈良県明日香村の高松塚古坟の発掘中に彩色壁画を発见した故网干善教先生が教鞭を执っていた関西大学の文学部に进学しました。考古学研究室に入り、古坟の発掘调査などに参加するなかで惹かれたのは、発掘そのものではなく自然科学分析でした。

「古坟の石室や棺などに涂られた水银朱や漆などに惹かれ、発掘调査报告书でも科学分析の报告ページばかりを読んでいました。自分でも科学分析をしたいと思うようになったのですが、当时の日本の大学、文学部では自然科学分析を本格的に学ぶのが难しくて、悩みました」

博士后期课程在籍中に、考古学と自然科学的手法を総合的に学ぶために英国のブラッドフォード大学大学院に进学。质量分析や各种の成分分析、花粉分析など当时最先端の分析技术を広く习得しました。デンプン粒の分析に取り组み始めたのは帰国后のこと。国立民族学博物馆のピーター?マシウス先生の関わっていた科研费のプロジェクトに加わり、そこで「残存デンプン粒分析」という手法に出会います。东アジアではまだ谁も取り组んでいない分析手法で大きな可能性を感じたと言います。2005年に関西大学を中途退学して新たに入った総合研究大学院大学では、この分析法の理论と方法の确立に取り组み、本格的に研究を进めてきました。

1粒のデンプン粒が语る、昔の人の食卓

カブのデンプン粒
北海道伊达市カムイタプコプ下遗跡における畑跡の土壌の作物痕跡から见つかったカブのデンプン粒(400倍、开放ニコル)

残存デンプン粒分析とは、石器や土器など人工遗物の表面、人骨や动物骨の歯に付着した歯石などからデンプン粒を抽出し、その形状などをもとに植物种を特定する手法です。デンプン粒の形态は植物の种类によって异なるため、1粒でも由来となる植物を特定できます。

「大きさや形だけでなく、『偏光十字』にも特徴があります。顕微镜の『直交ニコル(2枚の偏光フィルターを直交させる方法、偏光フィルターをかけない方法を『开放ニコル』という)』で観察すると十字状の暗线『偏光十字』が见えるんですが、垂直に交わるものや卍状に交差するものなど、植物ごとに违いがあります。イネは垂直十字、レンコンは卍状に交差しています」

石器の场合は表面に精製水を垂らしてピペットで付着物を回収し、远心分离を行った后にプレパラートを作り、偏光装置付きの光学顕微镜で観察します。现代の植物と过去のデンプン粒は形态がほとんど変わらないため、现生植物の标本データと形态を比较することで植物种を同定できます。

例えば縄文時代中期の福島県の「井出上ノ原遗跡」では、磨石の表面からユリ属とコナラ属と推定されるデンプン粒が同じ箇所から見つかり、同じ石器で球根類と堅果類を加工していた可能性が浮かび上がりました。 また、北海道の「カムイタプコプ下遗跡」では、1663年の有珠山噴火によって封じ込められた畑跡の作物痕跡(土壌)から、カブと思われるデンプン粒が検出されました。文献だけでは把握が難しかったアイヌの人たちの畑作を、物質として示した成果です。

「考古科学では、骨や歯の研究、窒素?炭素安定同位体分析など他の手法との协働が重要です。复数の视点を组み合わせることで、はじめて见えてくるものがあります」

コムギ
现生コムギのデンプン粒(400倍、直交ニコル)
ヤマイモ
现生ヤマノイモのデンプン粒(400倍、直交ニコル)
イネ
现生イネのデンプン粒(1000倍、直交ニコル)

古文书に残る米粉の痕跡

料紙
史料编纂所所蔵「明治天皇宸翰御沙汰书」の料纸の顕微镜撮影画像(450倍、繊维の色の浓い部分はすべて米粉由来のデンプン粒が凝集)

渋谷先生は、遗物だけでなく古文书の纸(料纸)の分析にも取り组んでいます。和纸には製造工程で米粉が添加されるものもあるため、料纸をマイクロスコープで観察すると、コウゾやガンピといった素材繊维に密着するように、六角形の小さなイネのデンプン粒が多数确认できることがあります。

京都の松尾大社が所蔵する徳川幕府の朱印状の分析では、初代家康から14代家茂までの纸质の変化を时系列で追うことに成功しました。初期には繊维以外の雑多な成分が混在していますが、5代目纲吉以降になると雑物が减り、繊维の间隔が狭まって密度が高まり、纸厚も増していくようです。製法が标準化され、洗练されていく过程が料纸の中に刻まれていました。また、天皇が発する命令书には米粉の入っていない纸が使われるなど、文书の様式と料纸の组成が対応していることも见えてきました。

现在の课题は、残存デンプン粒分析を担う研究者の育成です。日本ではまだ研究者の数は少なく、东アジア全体でも限られています。そのため、研究の主导権は层の厚い欧米にあるのが现状です。

「东アジアのデンプン研究仲间を増やしたいですね。デンプン粒をとおして过去を学ぶことで、现在や未来を考えることができると思います。今后は研究データの共有を进め、被灾した歴史史料の保存や修復にも活用していきたいと考えています」

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